カンネ「また明日ね」

カンネ「また明日ね」


「ラヴィーネは…?ラヴィーネは無事なの!?」

フリーレンとフェルンの師弟コンビが水鏡の悪魔を破壊、複製体達との戦いを終えた魔法使い達が迷宮の最奥部に再び集結した

だが、そこに私─カンネ─の幼馴染みであるラヴィーネの姿は無かった

「大丈夫ですよカンネさん。傷を負ったもののラヴィーネさんはゴーレムで無事に脱出したそうです」

メトーデさんが言うのだから嘘ではないだろう、私は心から安堵した

「よかった…無事でよかった…グスッ」

「ですが…ラヴィーネさんは二次試験は不合格ということになります。そこは忘れてはいけませんよ」

「はい…」

頼りになる才女、ラヴィーネが脱落して自分だけが合格するなんて考えてもいなかった

私一人で三次試験に挑む事になるのは正直、心細い

だけど今は、無事だったラヴィーネに一目会いたくて会いたくて仕方がない、声を聴きたい…!


他の二次試験合格者と共に迷宮の入り口に戻ってきた私は

外壁の傍に足を揃えうずくまるように座り込んでいるラヴィーネを見つけた

「!…ラヴィーネ!ラヴィーネッ!!」

思わず駆け出してラヴィーネの元へと向かう

私の声に気づいたラヴィーネは私の方を向いてくれた

私はラヴィーネの横にしゃがんで無事でいてくれた幼馴染みの顔を覗き込む

ラヴィーネの表情には元気が明らかに無い、だけど、生きていてくれて本当に…

「よかった…無事で…」

「……」

グイッ

「痛い、痛いよラヴィーネ…」

ラヴィーネは何も言わず私のお下げを掴んで引っ張ってきた

ちょっとした痛みだけどそれが我慢してた私の涙を誘いだしてしまう

「…本物みたいだな」

「本物だよ!当たり前だよ!」

そういえばラヴィーネは私の複製体と対峙、撃破したんだった

本物と区別がつかないはずがないので今のはちょっとしたジョークなのだろう

私はそういう事が言える元気は残ってんだと、ホッとした

「お前は…」

ラヴィーネの視線が私の全身を巡る

お腹あたりで視線の移動をちょっと止めた時に一瞬厳しい表情になっていたけど私はその意味が分からなかった

「…大丈夫みたいだな」

「うん、何とかなったみたい。大きなケガもしないで…ってラヴィーネ!ラヴィーネこそ傷は大丈夫?」

「ああ…回復魔法が間に合ってもう傷は塞がってる」

ラヴィーネは視線を下に落とした。恐らくはお腹のあたりに攻撃を受けた、と言いたいのだろう

曲げた脚と服の胸の膨らみで見えにくいが、青い服が血の色に染まっている部分があるのが私にも分かった

凄惨な攻撃をうけたのが想像に難くないが、ラヴィーネ自身はもう落ち着いているようで良かった

「…痛くない?」

「ああ」

「…立てる?歩ける?」

「…芳しくないな…」

「一緒に帰れる?」

私がそう聞いたのは、周りも解散し始めていたからだ

私かラヴィーネの魔力が残っていれば浮かせて移動はできるから…

最悪、助けを呼ぼうか…

「………」

「ねえ」

「………」

「ラヴィーネ?」

「カンネ」

「何?」

「おんぶしろ」

…唐突に何を言い出すのかこの幼馴染みは…

「早くしろ。私はもう疲れて動けないんだ」

「あのさぁ。私も疲れてんだけど」

「知るか」

「…魔法で浮かせて運ぶからね」

「嫌だ。おんぶしろ」

「何でだよこのわがままお嬢様」

「…いいだろ別に。おんぶしろよ」

単なるわがままなのか、そうでないのか、私にはラヴィーネの意図がつかめない

だけど…ラヴィーネの今日の境遇を思うと…聞いてやってもいいのかなあ

…というか、体力もつかなあ?

「分かったよラヴィーネ。おんぶしてあげますよ」

ラヴィーネはそれを聞いて満足そうにうなづいた

子供か!


「よいっしょっと」

ラヴィーネの要望が通り、私はラヴィーネを背負ってあげた

ラヴィーネは両手を肩越しに私の胸元で組んで私によりかかっている

正直重いけど…まあ我慢我慢

「じゃあ出発するね」

「ああ…」

こうして私たちは迷宮を後にした…


…帰路の最中

疲れや気まずさもあってか…私たちが言葉を交わすことはなかった


途中で話しかけようとはした、だけど…

私の首筋に…小さな水の雫が滴り落ちた事に気づいた私は…話しかけるのを辞めた

何も…言葉をかけられなかった


私におんぶをせがんだ理由もなんとなく分かった

…もちろん、もう聞くつもりなんてない


…私がラヴィーネに声をかけれたのは、解散場所に着いた時

かけた言葉も、たった一言


「また明日ね、ラヴィーネ」


私たちの間のこの言葉

いつもの場所で、いつもの時間に会う約束の言葉

試験の合否が分かれた私たちだけど、関係無しに明日も会いたい…

何をするかもどこにいくかも決めていないけど、明日も会いたい…

ラヴィーネに明日も会いたい…

私の気持ち、どうか届いて…


ラヴィーネの声は聞こえなかった

だけど、ラヴィーネは私の後ろ頭に額をコツンと当ててくれた、服にしがみつく手の力を強くしてくれた

それで十分だった


「ありがとう…ラヴィーネ」


私はラヴィーネを見ないようにして背から降ろし、そのまま振り返らずに自分の家へ歩き始めた


葬送のフリーレン 第56話 フェルンの杖 に続く…

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